六章 青い月団と荒野の星

「先行、ご苦労。無事でなによりだった、レンブラント、カーティス」
「はいっ」
 筆頭騎士に名呼ばれたふたりは、ぴったり重なった返事と敬礼で答えた。
 アジュールさまの後ろにはいつものようにスルヤとギギが控えている。
 その光景にレンブラントはひどくほっとした。
 ここだけの話、いままでルイス王国に対して忠誠心なんてこれっぽっちも感じていなかったけれど、今日、いまこの瞬間は、ルイスの騎士であるのがまるで当然のような気持ちになっているのだから不思議だ。
 きっと、いや絶対にアジュールさま効果だ。
 合流したのはアジュールさまとギギ、それから十数人の騎士たちだった。同期や後輩にあたる仲間で、皆、騎士団の馬に乗っていた。
 合流した後は簡単に挨拶を交わし、彼らは小川沿いでめいめいの馬の世話をしたり、寝転んだりしていた。
 レンブラントとカーティスがギギと再会の挨拶をしていると、アジュールさまが近寄ってきたので、三人で敬礼して迎える。
 アジュールさまはそれに軽く手を挙げて応えた。
「いい。一緒に座ってもいいか」
 一行をぐるりと見回したアジュールさまは、少なくともレンブラントとカーティスが目を丸くしているのを見て、くす、と笑みを漏らした。
「……おかしいか?」
「い、いえ! そうでは!」
 カーティスがあわてて答えるのを聞くともなく聞き流し、アジュールさまはマントを後ろへやってそこへ座った。
 ギギが自然にその隣に腰を下ろす。
「問題なのはこのあとだな」
 アジュールさまが口を開いたので、レンブラントとカーティスは、まるで先を競うようにばたばたと座った。
「……まずはほかの見習いたちですが、合流には問題ないでしょう」
「ああ。あちらは大丈夫だろう。姫がついている」
 ふたりの会話に、あ、とレンブラントは思い出した。黒姫がいない、ということを失念していた。どうやら後続の部隊を率いているのが黒姫らしい。
「皆が合流するとけっこうな大所帯となりますが、そのあとどうするおつもりか、なにかお考えはありますか」
 ギギがいつもと変わらない調子で訊ねる。
 それに対してアジュールさまは口をつぐんだ。見えないなにかを睨みつけるような目で考え込んでいる。
 レンブラントはつい、カーティスと視線を交わした。
 とりあえずほっとしたのもつかの間、問題はいろいろある。
 帰るところがないこと自体はそんなに不安ではない。これは出自のせいだろうか。同じような出自の仲間たちはどう思っているのだろう。
 それはさておき、もっと身近なところに問題はあった。
 たとえば食糧。たとえば寝るところ。自力でなんとかするにも、この荒野にはなにもない。ならどこに移動すればいいのか、レンブラントには見当もつかない。
「アジュールさま、みんな」
 そこへスルヤがやってきた。うしろにシルフィもくっついている。
 ふたりは……そう、シルフィもだ、輪になっている一行に加わった。
 多少汚れてはいるものの、ルイスの湖の色をした騎士団服が五人額をつき合わせているのは、ちょっとばかり物騒にも見えるかも。
 だって誰もが厳しい、あるいは不安そうな顔をしている。
 ……えっと、シルフィ以外だけど。
 そんな一同をぐるりと見回して、アジュールさまが口を開いた。
「おまえたちに、聞いてみたいんだが」
 アジュールさまは、いつもと変わらない声で言った。大きな声ではないのに、すごく迫力がある。なんだろう、と背筋が伸びる感じがする。
「今後のことなんだが、黒姫からひとつ、提案を受けている」
 静かに、ただ静かに。
「彼女は……俺に、国を創れと言うんだ」
 静かにそう、告げた。
 ただ、その言葉の意味だけを乗せて。